なぜ、飲みニケーションが必要だったのか

ある経営者の方が言いました。

「今は、飲み会をやろうと言っても、それは強制ですかと聞かれる。このセミナーに行ってみてと言えば、業務時間内でないなら残業代は出ますか、と来る。下手に食事も誘えない。残業代を請求される飲み会なんて洒落にもならないよ」

こういった嘆きは、よく聞きます。ほとんどは、昭和の『飲みニケーション』を経験してきた方々です。

飲みニケーション、、、まぁお分かりの方もいらっしゃるでしょうが、お酒を飲みながらコミュニケーションを取ることです。(若い世代の方には馴染みがないかもしれませんので、あえて説明してみました)

飲みニケーションのメリットとして考えられるのは、
◉お酒を飲むことで、普段よりリラックスした状態で話ができ、上司や同僚、また他部署の人などとも交流を深められる
◉仕事をしている時とは異なる姿が見られることで、心のハードルが低くなり、コミュニケーションが活性化する
◉お酒が入り酔いが回ってくると、日頃言えなかったことが言えたり本音で話せる

これらを期待して、飲み会を奨励している企業、またそのための手当を支給している企業だってあるくらいです。いわゆる『下戸』である私でも、お酒自体の楽しみは分からないものの、お酒の席のくだけた雰囲気は嫌いではなく、その効果や利点については理解しています。

ただその一方で、若い世代に限らず、飲み会を嫌う人は昔からいる、というのも事実です。

飲みニケーションのデメリットとして考えられるのは、
◉『無礼講』と称して、相手を傷つけたり不快にさせるような言動をし、それをお酒のせいにしてしまう
◉強制的に参加させたり、上司が部下に延々と説教をする、などのパワハラが生じやすい
◉女性男性に関係なく、体に触ったり下ネタを言ったりなど、セクハラが起こりやすい

確かに、そんなデメリットがあれば、誰でも参加したくなくなるでしょう。(若い世代が嫌がるのはそこだけでなく、仕事とプライベートの時間を混同されたくない、などの理由もあるようです)

それでも飲みニケーションは、今でもあります。飲みニケーションとは呼ばなくなっているとしても、飲み会自体はあり、それを貴重なコミュニケーションの場と捉えている人は、少なからずいます。『慰労の一環』または『福利厚生』という場合もあるでしょうが、それならば何も飲み会や食事会にしなくても、その分を金銭で支給して欲しいという人もいるでしょうね。(むしろ、そちらの方が多い?)

お酒が好きで、純粋にお酒を楽しみたいなら、同じようにお酒が好きな、気の合う仲間だけで行けば良いのです。そうでなく、あえて仕事とは別で、お酒を飲みながら(もしくは食事をしながら)コミュニケーションを取ろうとすることには、どんな意味があるのでしょうか。飲みニケーションを重視している人の根底には、何があるのでしょうか。

そのヒントは、上記メリットの中の『お酒が入り酔いが回ってくると、日頃言えなかったことが言えたり本音で話せる』にあります。お酒が入らないと言いたいことが言えない。そう、その職場には『心理的安全性がない』ということなのです。職場に心理的安全性があれば、わざわざ飲みニケーションをしなくても、日頃から言いたいことが言いやすい、本音が出しやすい。そういう職場なら、誰かが企画して強制参加させずとも、自然と「食事でも行こうか」となる可能性も生まれ、さらにコミュニケーションが深まるかもしれません。

昔ながらの飲みニケーションには、心理的安全性が築けていない職場の、偏ったコミュニケーションを補完してくれる役割があったのでしょうね。戦後の日本を復興させるため、ひたすら頑張って働いてきた昭和の人達には、年功序列、男尊女卑といった当たり前の”文化”があり、その影響を強く受けた人のコミュニケーションでは心理的安全性を築くことができなかったのは、仕方のないことだと思います。「お酒を飲めば、誰もがリラックスして話せるようになる」「お酒の席では、誰もが笑顔になる」などという思い込みがあったのでしょう。飲みニケーションという形でしか、心の距離を縮めることができなかった人達の苦肉の策だったのかもしれません。

多様性を尊重する流れにある現代では、コミュニケーションのあり方も過渡期だと言えます。これからの企業は、心理的安全性が当たり前に求められるようになるでしょう。

あなたの会社には、心理的安全性はありますか。

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